北の幽霊、南の怨霊

今は亡き、同朋舎発行の「怪談叢書」シリーズ。
合田一道氏と友成純一氏の共著書である。…といっても、新耳袋「超」怖い話のように
「共同執筆」をしているわけではなく「北の幽霊・南の怨霊という、二つに分かれたそれ
ぞれのパートをそれぞれが単独で執筆担当している」本だ。
少し特殊な装丁が行われており、どちらからでも読み始める事ができる表裏がない表紙に
なっている。丁度本の真ん中で本文の上下が入れ替わっている造り…といえばお分かりに
なるだろうか?


さて、それぞれのパートについて簡単に書こう。
合田一道氏は元々ノンフィクション作家。著書の内容や、今回の「北の幽霊」を読むと、
北海道を中心に活躍されているようだ。
この北の幽霊は、多分そういった取材や仕事の合間に聞き集めた北海道の「伝承」「怪談」
を氏がリライトしたもの、といえる。
アイヌに絡んだ話が多い「黎明期」から、本土からの侵攻ともいえる「開拓期」、近代の怪談
をまとめた「現代」、と三つに分けられているのが面白い。
一部は実話怪談といえるが、他は伝承・奇談といった「民話」っぽい話が並ぶので、従来の
実話怪談と同じように読むと肩透かしを食うだろうが、北海道の「奇談の資料」と考えれば、
面白い。資料と言っても、そこまで分量があるわけではないが。
中でも「地獄穴の怪女」「大蛇」などの怪物系(妖怪?)の話は興味深い。
(一部、松谷みよ子氏が「現代民話」として発表されたネタもあるのが面白い)


友成純一氏といえば、有名なホラー作家。
そんな氏が書いた「南の怨霊」なので「すわ!ヴァイオレンス怪談か!?」と思わせたが、
じつは全く違う(笑)。
友成氏が九州に引っ越してからの「お出かけ譚」であった。
取材や遊びに行った先で訪れた「史跡」などにまつわる伝承について書いてある。
氏曰く「九州発見の驚き」の話である。
福岡をはじめとする九州一円(沖縄については残念ながら収録されていない)の伝承・奇談
が、そこに住むもの・訪ねたものならではの筆致で描かれている。
九州在住の方なら「ああ、あそこの話か」と頷く事必死だろう。
それぞれの話は面白いのだが、様々な伝承に混じって「イッシー(鹿児島)」の名前が出て
くるのが可笑しい。イッシーも伝承・民話となる日が近いのか?すでにそうなのか?


こうして「北の伝承」と「南の伝承」を並べてみると浮き立つのが、「土地の特性」だろうか?
北海道も九州も、中央からの攻撃に晒されたという共通点がある。
が、最終的にそれぞれが全く異なった行動を取るのが興味深い。
北が「幕府の政策に耐え忍んで」いたのに対して、南は「倒幕」を果たしている。
(北も南も中央からの侵略に抵抗したのは同じ)
幽霊譚でもそれが顕著に現れていて、北の幽霊になった女性は、男性という「暴力」に耐えて耐えて、
死んでから復讐…というパターンが多い。それもその復讐はじわじわとしたものである。
南と言うと、女性が「生きているうちから復讐をするが、それで返り討ちに遭い、死後祟る」といった
パターンで、生きているうちは長刀を振り回して、男を殺しに、それで殺せなければ死後祟る、
というのもストレートな行動(?)だ。まさに「怨霊」。
こうして、二つの異なった土地の奇談を並べる事によって、それぞれの特異性を浮き彫りにした点
で、この「北の幽霊、南の怨霊」は面白い資料集だろう。
是非、復刊していただきたいものである。

北の幽霊、南の怨霊

北の幽霊、南の怨霊