全国のお坊さんがこっそり明かす 心に残った幽霊供養

2004年は学習研究社からとても怖い怪談書籍が2冊出た。
一つは小池壮彦氏の「異界の扉」、そしてもう一つが、この高田寅彦氏の「全国のお坊さんがこっそり明かす 心に残った幽霊供養(以下、幽霊供養)」である。「異界の扉」の紹介はまた……ということにして、今回はこちらの「幽霊供養」にスポットを当ててみたい。


内容はタイトルそのままで、お坊さん達から取材した幽霊供養の話である。
それのどこがとても怖い怪談なのか?ただの宗教書と変わらないのではないか?とおっしゃる方も多いことだろう。大体がこのタイトルからして、なんか<いい話系>である。
残された家族とお寺さんの良い関係を想起させるではないか。
しかし。この「幽霊供養」はそんな<いい話系>の書籍ではなかった。
キャッチコピーをつけるなら、「全国のお坊さんも大変!」とか「お坊さんにならなければ、よかった」とか、そんな感じだろう。私個人としては「タイトルに騙されるな!」という惹句に(?)したいところ。
まぁ、それぐらい怖い怪談書籍である、ということだ。


で、この「幽霊供養」の中身だが、341ページで13話収録。
文章はノスタルジックかつ簡潔で、じつに読みやすい。
取材したことを、読者が理解し易い様に淡々と書く…という事は実に難しいのだが、著者は高いレベルでそれをクリアしている。著者である高田氏がノンフィクションライターであることが最大の理由かもしれない(ちなみに、氏の趣味は古寺・遺跡巡り)。また、お坊さんに取材しているのにも拘らず、変に宗教臭くならないのもGOOD!…とはいっても、通常の怪談書籍よりは若干仏教色豊かではあるが。
おまけに挿絵もいい仕事している事を書いておこう。


さて、収録された話の多くは、とんでもない祟りや因縁、憑き物の話である。
まず、しょっぱなの「魂が宿った人形」から<やられた!>と感じた。
タイトルどおりの話なのだが、そこで起こる怪異は群を抜いている。
こんな体験談、中々無い。これ1話を読み終えたとき、すでに背筋が寒くなっており、背後が気になって仕方がなくなっていた。
たった1話でこれである。
某有名実話怪談書籍である「東の横綱」級の衝撃。怖くて、一気読みが出来ないのだ。
結局、私が全てを読み終えたのは暫く間を置いてからだった。それくらい、濃い本なのだ。
本気で怖い怪談書籍として、未読の怪談ファンにお勧めしておきたい。


最後に、「これは怖いな」と思った話をいくつか紹介しておこう。
・魂が宿った人形………世にいくつかある人形怪談の中でもかなり怖い話になると思う。
・封印された怨霊………あるお寺に改装工事にまつわる話。色んな意味で恐ろしい。
・大阪、一心寺にて……戦時中の話。そして、そこにある人間の業の深さ・罪。
・四国遍路の果て………過去の罪と、寺のタブー。
・丑の刻参りの女………人を呪わば…という単純な話ではない。怖いのは、人間、か。
・霊が棲む寺での対話…誰が誰と対話したのか、がポイントか。一番仏教色が強い話。





心に残った幽霊供養―全国のお坊さんがこっそり明かす

心に残った幽霊供養―全国のお坊さんがこっそり明かす