本当にあった超怪奇体験 恐怖空間へようこそ

秋本あまん*1:著の実話怪談集第一作。初版発行を見ると<1998年1月5日>とある。
この年は西の横綱が復活した年であるが、実はそれよりも先に発行されているのだ。
<超>がついているあたりから推察するに東の横綱人気と切り離して考えるのは無理と
いうものだろう。俗に言う「後発本ゆえの戦略」が透けて見えるのである。


さて、この秋本あまん氏の書く怪談だが、元々ルポライター出身という事も手伝ってか
実にかっちりした文章表現だと感じた。主観より客観…とでもいうのか?
現在の怪談書籍ファンには好まれる文章形態といえる。
また、グロテスクな話や厭な人間関係も独特の表現で書いているので、そこのポイント
が高い。怖さのツボを捉えて表現する力もあるので、もっと人気が出ても良かったはず
なのだが、これが中々そうもいかなかったようである。
では、何故評価がそこまで高くならなかったのだろうか?
その理由は二つある。


1:ネタの選別が上手くない。
2:一話一話が長く感じる事がある。

1:惜しいネタが沢山あるし、決して怖くないわけではないが、どこか売りになる話が
欲しかったところである。おまけに、初っ端に収録された<冬山の怪奇>は有名な怪談
の焼き直し…というかそのままだったこともあって、<実話怪談である>という部分の
説得力を失ってしまった感がある。


2:また、一話一話が長い事に文句はないが、それが冗長な感じを受ける。
必要な表現で長くなるのは構わない。けれど、怖さをぼかすような表現は要らないので
ある。
それと、何故か<表現の手加減>しているような印象も受けた。
「書いてはいけない」とか「ここの表現はぼかそう」と意識的に行った雰囲気がある。
どろっとした部分を書いてしまうことに、著者自信が躊躇したのかもしれないが、その
部分は書くべきであったのではないだろうか?


だったらこの「本当にあった超怪奇体験」はつまらないのか?
いやいや、意外と面白いのである。
「ジャンボ機の窓から見た光景」は海外のシャーマニズムというか、そういった類の話
で面白い。「跨る男」はヨーガに興味が湧くかもしれない。「穴を開ける指」は、思わ
ずぞっとする内容だし、「大勢の前に現れた霊1・2」は心霊現象として、実に興味深
い事例で、研究者垂涎だろう。「馬鹿にしたばっかりに…」は、こっくりさん類話かと
思いきや、実に厭な話であった。
それに、秋本氏が書く<心霊コラム*2>も中々面白い。


ちなみに、この「本当にあった超怪奇体験」の挿絵はあの「なら きはち」氏。
いい味の挿絵が挿入されているので、それもチェックしていただきたい。
古書店で見かけた際には、一読してみてはいかがだろうか?

*1:秋本あまん氏はそのプロフィールと怪談の内容で<朝業るみ子>氏と同一人物ではないか、といわれている。

*2:心霊コラムは他の著作でも書いている。秋本氏の怪談書籍らしさの一端を担う。もちろん朝業るみ子氏の著作にもコラムがあるのだが…。