百物語 実録怪談集


SF作家・平谷 美樹(ひらや よしき)*1氏が百物語完全収録に挑戦した、怪談集。
この本が出た時点では次の第二夜を出す予定がなかったのか、<第一夜>となっていな
い。「僕の体験談はほとんど書き終えた(中略)次の企画はネタの溜まる三十年後とい
うことになるだろう」とあとがきにはあったが、次の年に第二夜が出たのは皆さんご存
知の通り。おまけに第三夜が出たのは去年で、今年第四夜も決まっているらしい。
どうも、こういった怪談書籍を執筆するという事を一回でも行えば、怖い話がどんどん
集まってしまうようだ。それと、やはりファンからの要望もあるのだろう。


さて、この第一夜に当たる「百物語」。
手加減無しで<全百話>収録してある。これが一体どういうことなのか?
世の中で「百物語」を名乗る怪談書籍は多い。が、実際百話収録していないものが殆ど
で、殆どが看板に偽りありの状態だった。あの有名な「新耳袋」でさえ、扶桑社版以外
は99話で打ち止めしているのである*2。何故収録しないのか、といえば、やはり「百を語
れば怪に至る」という先人の言葉が一番の理由だろう。
ただ、この「百物語」はお札を貼り付けてあるので安心しても読める…かもしれない。


この全百話収録された怪談の殆どは「些細な怪異」である。
それも著者である平谷氏の周囲に起こった事が殆どを占める。
「あ、今のなんだろう」「これなんだろう」「もしかしたら」…というような些細な怪
談であるからして、正直いって、怖くはない。怖くはないが、面白いと思う。
目立つのは釣り場の怪談である。百話の内結構な割合で収録されている。これは著者で
ある平谷氏の趣味がフライフィッシングである為だろう。
やはり自然には我々が想像もつかないような異界が口をあけているのかもしれない。


ただ、怪談本を読むことが好きな人にはこの本は刺激が足りないだろう。
その点で、評価が別れるはずである。


特筆すべきは、巻末の「怪奇鼎談」部分。
平谷氏と大迫純一*3の対談が収められているので、ファンなら必読!である。


百物語―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)

百物語―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)

*1:良く誤解されるが男性…である。「エンデュミオン エンデュミオン」でデビュー。第一回小松左京賞を「エリ・エリ」で受賞。大阪芸大出身である。大阪芸大出身の怪談本著者が多いのは、何故?

*2:これは扶桑社版で百話収録した際怪異が様々な所で勃発したのが原因。99話収録と謳っているが、ある仕掛けによって…。

*3:あやかし通信の著者で、新耳袋協力者でもあった…が、ある部分で色々あったらしい。あったんだろう。