恐怖のネット怪談

今は亡き同朋舎(発売は角川書店)から発行された、その名のとおりのネットで公開
された怪談を集めただけのもの。
ちなみにホラージャパネスク叢書シリーズの一冊である。
初版は2001年6月8日であるから結構前に出た書籍だ。
怪の会:編であるが、どういった会なのか分からない。多分、同朋舎編集部のことだ
ろうと思うのだが、どうか(三津田信三氏が絡んでいるらしいが)?


内容は、ネットで公開されている怪談をそのまま転載した、といったところだろう。
今現在流行っている「ネット書籍」と思っていただいて構わないだろう。
「妖怪百物語」「Ghost Tale」「きょうふの味噌汁」の3サイトにて公開されている怪
談の中から数編づつ編集して掲載しているのだが、これがどうもよろしくない。
投稿された文章のまま(もしくはサイト管理人の文章のまま)の掲載である為、読み辛
かったり、意味不明な部分があったりと実にマイナス点が目立つ。良くも悪くも素人臭
さが目立ち、怪談の肝である「怖さの焦点」がぼやけている事この上ない。
サイト管理人なり、編集なりがきちんとリライトをしておけば…と思うのだが、どうだ
ろうか?


しかし、全てが面白くなかったかというと、そうでもない。
そうでもないのだが、無料で(ここが重要)読めるものに金を出して読むとなると、何
か釈然としないものがあるのは気のせいではない。
ネット書籍の意味は「いつでもどこでも読める」というところだろうが、これからは
それ以上の+αが必要なのだ。
作家がリライトするなり、ネットで公開した以上の情報を付け加えたり、紙媒体である
ことの意味をハッキリさせる事等がこれから重要といえるだろう。
(と、ここまで書いてふと思ったのだが、管理人氏以外の「著作権」はどうなっている
であろうか?と。管理人氏の体験談以外にも収録されているのだが、その辺りはクリア
されているのだろうか?それとも、サイトの投稿した時点で著作権はサイト管理人氏に
移行しているのだろうか?…大らかな時代だったのかもしれないが、現在ではこう簡単
に事が運ばないであろう事は想像に難くない。この辺りは詳しい事が分からないので言
及については避ける。ネタに関しての著作権と文章に関しての著作権の両方に抵触して
いるような気がしないでもないのだが…)


さて、これだけだとただの否定意見で終わってしまう。
それぞれのサイトが受け持つパートの説明をしておこう。


「妖怪百物語」:http://www2.osk.3web.ne.jp/~ynari/ghost/ghost.htm
ネット上で百物語をやったサイトの一つ。収録された話も3つのサイトの中で一番まとも
…と思ったが、実は既存の怪談のミキシングが混ざっていたり、話があまりにもネタ臭か
ったりと胡散臭い事この上ない。怪談マニアにはイマイチ。
ここに収録されていない話の方が面白かったりするので、ネット上で読んだ方が満足度は
高いだろう。


「Ghost Tail」:http://www.ghosttail.com/
恐怖素材をメインにしたサイト。正直トップのフラッシュが鬱陶しい。
実はこのたび読み返していて一番怖いのはこのパートであった。
必要以上の煽り方も少なく、ありがちな話もそれなりに読ませるのが中々よい。これは
投稿者の手柄であろう。だが、やはり素人文章のゆるさが目立つ。残念。


「きょうふの味噌汁」:現在サイトの確認が出来なかった。
サイトの名前は「きょうふの味噌汁→きょうふのみそしる→今日、麩の味噌汁」からだろ
う。一昔前に流行った「悪の十字架」などと同じようなネタである。このサイトタイトル
で厭な予感がしたが、やはり電波ゆんゆんな内容であった。良くも悪くもネットらしい文
章は恐怖を薄める事この上ない。
このパートを読んでから「霊感少女論(近藤雅樹河出書房新社)」に目を通すのも悪く
ない…かもしれない。ちなみ「霊感少女論」は心霊マニアなら必読。


余談だが、巻末にメールアドレスと共に「体験談の投稿」を募集する旨の記述がある。
同朋舎としては続編を狙っていたのかもしれないが、2は結局出版されなかったようだ。
それにしても不思議なのは投稿作品を「ネット怪談」として扱おうとする同朋舎の行動
なのだが…。メールで送られた=これもネット怪談、という図式なのだろうか?
ちなみに「投稿された体験談の著作権は百怪の会が有する」予定だったようである。


この「恐怖のネット怪談」を読み直すことによって、現在の出版業界や怪談書籍について、
色々考える事ができるのが、この書籍の存在理由の一つなのかもしれない。

恐怖のネット怪談 (ホラージャパネスク叢書)

恐怖のネット怪談 (ホラージャパネスク叢書)

霊感少女論

霊感少女論