百物語 第三夜 実録怪談集

平谷美樹氏の実録怪談集の第三弾である。
この第三夜を執筆する事は平谷氏にとってイレギュラーな出来事だったらしい。
終盤になるまで百話集まらずに四苦八苦して、なんとかギリギリで揃った、とまえがき
にあった。それで百話以上(!)収録となったらしいのだが、「やはり怪談を百話集め
るというのは大変な事なのだ」と改めて思わされた次第である。


しかし何故、こんなに人は百物語に拘るのだろう?
「百話語ると、怪に至る」といった部分に惹かれるのだろうか?
百といった数字が特殊な意味を持つからだろうか?
どちらにせよ、「この怪談集は百の物語が収録されている」となれば、それは大きな牽
引力になる。そして「実話」「百物語」という二つ揃えば更に怪談マニアに更なるアピ
ールができるだろう。


実は、著者である平谷氏は懐疑派のようである。
だからこそフラットな立場で怪異を吟味する事ができる。
物語シリーズの奥底に流れる「怪の標本」というカラーはこの辺りが大いに関係して
いるのだろう。リアル(怪異に対してリアルというのはおかしいが)な怪異が大量に納
められている理由でもあるのだが。


この第三夜になって、採話ナンバーが外されてしまっている。
折角の面白い試みがなくなってしまったのは、かなり惜しい。
そして、怪異の方向性ごとに章立てをする、という「新耳袋スタイル」に近くなったの
はあまり良いこととはいえないのではないだろうか?
オリジナリティーが実話怪談を続ける上での重要なポイントの一つである、と思うのだ
が…。


特筆しておきたいのは二つ。
・最終章である十一章「連鎖」の内容。
・前作・前々作との関連。
最終章はありがちだが、この第三夜の核心に触れる部分であり、この話の存在の有無で
本の性格が変る可能性がある。それほどの重要度があるのだ。
また、全体に前作・前々作に関する記述が多いのも特徴。シリーズ全て読んでいるもの
向けの仕掛けである。この辺りも新耳袋の影響下にあるようだ。


第四夜は平谷氏のオリジナリティが試される重要なものになるに違いない。

百物語第三夜―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)

百物語第三夜―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)