新耳袋 第五夜

メディアファクトリー版は2000年7月、角川文庫版は2004年6月に刊行された
新耳袋第五夜だが、これで予定の漸く半分となった。
要するに500話がここに集まったわけである。百物語5回分と思えば結構な量だろう
か。とりあえずの折り返し点到達、だ。


折り返し点に到達した新耳袋が提唱したのは「原点回帰」だった。
第四夜という新耳袋にとっての足枷を外す為でもあるだろうし、単純なリセットという
意味もあるだろう。実話怪談集としては大英断である。
あとがきにて「(新耳袋は)最新刊に前巻を越えるという目的を設けてはいません」
と著者自ら語っているのも頷ける…というものだが、何か引っ掛かる。
この言葉に新耳袋の矛盾が隠されているように思えるのだ。
実話怪談集はまず<恐怖>ありきである。読者(特にライトユーザー)はこの手の書籍
を買うに当たって一番に考えるのは「怖かったか、怖くなかったか」であろう。
新耳袋も当初はきちんと「怪談は怖くなくてはいけない」という発言をしていた。
多分著者達は「怖さのインフレーションを起こす前にきちんと新耳袋のスタンスを示し
ておこう」と思っての一文だったのかもしれないが、それを伝えるには言葉が足りなさ
過ぎる*1

その件以外にも、この五夜ぐらいから<怪談は文化>発言や有名人・著名人への接近な
ど、所謂「権威付け」作業が目立ってきたように思える。怪談之怪の理念なぞない。
これじゃ「怪異蒐集」ではなく、「権威蒐集」ではないか…と文句の一つも言いたくな
る。


キナ臭い話題になったので、内容について語ろう。
第一章は「第一夜にまつわる六つの話」である。第一夜に収録された怪談の後日談がメ
インの章で、シリーズ物ならではの章だろう。
第六話「正面」に関しては色々な余談が出てきそうのだが……。放置*2
第十五話「ブラックリスト」、第二十話から二十三話「ひとこと」は粋な味わいだ。
第六章「百物語にまつわる五つの話」とノーカウントの話は中山氏が語るライブで起き
た怪異の話。しかしまぁ、また封印か…とため息。封印するなら話の存在自体を封印す
ればいいのではないだろうか?その方が読者の為にもなるだろう。
第八章「噺家にまつわる六つの話」と第十一章「戦争にまつわる九つの話*3」が第五夜
の肝だろうか?


第五夜はどうも怪異にキレがないというか、不満が幾つか残った。
第八話・第六十二話・第八十二話は文章がネックになっているような気がする。
第二十二話は途中、非常に意味が分かり辛かった*4
全体に「表現の模索中」といった著者の迷いを感じるのである。
これがあんなことになるとは、この時は思っても見なかったのだが……。


原点回帰した新耳袋第五夜は、迷走を始める手前の一冊…と位置づけて読んだ方が
よさそうである。

新耳袋―現代百物語〈第5夜〉 (角川文庫)

新耳袋―現代百物語〈第5夜〉 (角川文庫)

*1:いつもそう言うパターンであると思うのだが。

*2:大迫純一:著「あやかし通信・怪」参照。

*3:第八十九話・九十話は導入部分としても機能している。

*4:怪異は理解できるが、文章がおかしいのだ。