捏造批判の落とし穴。

……実は、感想文の中からカットした部分がある。
書いている内に、ちょっと思ったことがあった。
それは感想というより、まったく別の方向に行ってしまった内容で(笑)。
なので、カットしたのだが、ここに加筆・再編集してUPする。
これも一つの意見、ということで……。



ここ最近「水木しげるが捏造した妖怪を見たという話を聞くが、それは脳内幻覚であり、
実話怪談としては成り立たない。民俗学的に云々」という話をよく見る。
要するに「水木氏捏造妖怪のインプットに侵されている為に(脳内幻覚を)見てしまうの
だ」ということらしい(「もしくは体験談も捏造ではないか」と言う話もあるが)。
待て。個人的には「居ても(見ても)おかしくないのではないか」と思う。
もちろん、幻覚である可能性もあるが、重要なのはそれらを全て否定せずに、冷静に判断
することではないだろうか。


野暮を承知で書かせて頂く。
捏造と言われる妖怪のビジュアルと同じものを見た=嘘っぱちである、という論説。
実はこの論説は大きな落とし穴に引っ掛かっているのである。やーいやーい。



■「水木捏造妖怪と同じビジュアルの妖怪はいない」という説。
例を挙げさせていただけば
1:頭がとんがって、蓑を着た背の低い人間型の何かを見た。油すまし?
  捏造妖怪論者は言う。
  「それは水木の捏造した外見であり、油すましはそんな格好ではない」


2:空に白い布が飛んでいた。手らしきものがあった。一反木綿?
  捏造妖怪論者は言う。
  「それは水木の捏造した外見であり、一反木綿に手はない」

 
実は体験者は現象については何も論じていない。見ただけなのだ。
名前も「かもね」程度であろう。
ただ、「見てしまった」事を話しているだけ(←重要)で、油を盗んだ人の化けたものと
か、山道で出遭った油瓶を提げたものとか、突然襲い掛かられて、顔を布で締め上げられ
て窒息したとかそういう話ではないのである。
見てしまった側は、自分でも信じられない出来事に自分が知っている知識で整合性を求め
るから、便宜上何らかの妖怪名を当てただけ、というのが正解だろう。
読み手も然りで「これこれこういう外見なら○○って妖怪かもなぁ」と考える。


ここである「仮説」を立ててみよう。
『実は「油すまし」や「一反木綿」ではない「全く別の何か」の可能性もある』
そう、我々の知らぬ何かである可能性もあるのだ。実際にはとんでもないものを見た可能
性が高い。
憶測で物を言わせて貰えば、昔日の人々が見た「何者か」が伝承される内に、他の現象等
とミキシングされて伝わったと考えてみると、しっくりいく。
(妖怪をヴィジュアル化する際にミキシングされてしまった、と考えるのが妥当か)
こう考えると、外見と名前と現象の三つが微妙にずれて伝わったという仮設を立てること
が出来る。
だとすれば、捏造と言われる妖怪が、実は別の何者かをモチーフにしてヴィジュアル化さ
れており、それがそのまま現代まで伝ってしまい…と考える事ができるはずである。



なのに、一部否定論者は「捏造妖怪だから、いないんだ!」と頭ごなしに否定する。
民俗学での妖怪は現象であり云々」とか「こんな話聞いた事がない」とか。
実は一部否定論者は「別の角度から見ることをしない」という研究者にあるまじき行為を
平気で行い、一方的に攻撃しているだけである。頭が固いというか、権威主義と言わざる
を得ないだろう。それかやっかみ半分なのか。
これを「狭量で視野が狭い」と言わずしてなんと言えばよいのだろうか?
「脳内幻覚」「捏造」とか言う前に、もう少しなんとかならんもんか(笑)?
とかいうと「自分は真面目に研究しているのだ!素人にそんな事を言われる筋合いはない
!」と突っ込まれそう(笑)。


と、解りづらいことをつらつら書いた(だから別項にしたのだけど)が、
個人的には「実話妖怪怪談」を楽しく読めればそれで良い、と思っている。
「いる・いない」「脳内うんちゃら」等、そんな事は言うだけ野暮。
……だよね?


おまけ。
水木しげる氏の「妖怪千体説」をご存知だろうか?
「世界の妖怪はどこの国でも大体千体に分けられる」という水木氏の主張だ。
ある国ではAと呼ばれている妖怪がいたとする。
そのAという妖怪に似た性質の精霊が他の国にいて、その名をBという。
だったら、A≒Bではないか?
それを踏まえて考えると、それぞれの国の妖怪は大体千体程度に分類できる。
という主張である。


そして、その説を裏付けるエピソードとして、水木氏が自著である「妖怪図鑑」などを現
地住民に見せると、言葉も文字も全く違う文化なのに、絵を見ただけで「これは○○とい
う精霊である」とか「これは□□という化け物で、これこれこういう悪さをする」とすら
すらと話すのだという。
そこで水木氏は驚いた。
全く説明も何もしていないのに、何故彼らは私の描いた妖怪を言い当てるのだろう、と。
(もちろん、名前ではなく、性質についてであろう)


こういう事を知ると、あながち「いない」っていえないと思うんだけどなぁ。