怪を訊く日々

福澤徹三氏の実話怪談本である。
メディアファクトリーの「怪談双書」と最近出た「幻冬舎文庫版」の二種類あり。
文庫版は加筆修正あり(一部の話は再取材をしている))


福澤徹三氏といえば今活躍中の小説家である。
俗に言うホラー小説系や青春小説(真夜中の金魚)など精力的に発表。
最近特に評価の高い小説家の一人だと思う。


氏のホラー小説は、中年男性の悲哀や人間関係の歪などに怪奇を絡めていくことが多い。
その怪異部分の所々に『実話』を忍ばせる手法を取っているせいか、実に怖いのだ。
フィクションである小説の中に実話を忍ばせる手法は昔から使われてきたが、それを違和
感なく使いこなす点において、福澤氏はかなりのセンスを持っているに違いない。
(実話怪談的手法を小説に使う事によって、リアリティを生み出す…と言う方法なの
だろう。この真逆を行くのが加藤一氏の「「弩」怖い話シリーズ」である。<実話怪
談を小説的手法によって描く>のだから)


さて、そのホラー小説家である福澤徹三氏が書いた実話怪談集。
それが「怪を訊く日々」だ。
現在、『幽』紙上において連載されている「続・怪を訊く日々」の元となったものである。
スタイル的には「聞き書き怪談集」であり、新耳袋「超」怖い話に近い。
個人的には「小池壮彦氏」や「樋口明雄氏」の匂いも感じる。
全体的に「漢臭い」実話怪談集…とでもいおうか。
この辺りは個人的感覚なので、正しいか正しくないかは分からないのだが(笑)。
ディテールを楽しむという部分ではどちらかというと、かなり「小説的」であるといえるだろう。


文章も安定しており、全体の構成もツボを心得たもので、実に楽しく面白く読むことが出来た。
(福澤氏本人は文章に満足していないらしいが…。この向上心がプロたる所以だろう)
好きな話は数あれど、一番インパクトがあったのは「花嫌い」だ。
明確な怪異が起こったわけでも、体験したわけでもないのだが、文章の端々から怪しい匂いが
沸き立つような一話だ。これもやはり怪談のかたちのひとつ。
福澤氏の怪談は、こういう「不条理」なものが多い。
幽霊が出た!とか見た!とかそういった怪異ではなく、心の裏側に侵食してくるような話。
それが「福澤怪談」なのだろう。
是非、早いうちに「続・怪を訊く日々」も刊行していただきたいものである。

怪を訊く日々 (幻冬舎文庫)

怪を訊く日々 (幻冬舎文庫)