異界の扉 怪奇探偵の幽霊白書

怪奇探偵<小池壮彦>氏の最新単行本(2005年5月現在)。
「取材中に集まってきた奇妙な出来事の覚え書き」を淡々と書き連ねた、
いわば<怪異譚集>である。
怪奇探偵としての徹底調査が殆どないのが特徴だ*1
実質「幽霊物件案内」シリーズの続編といった雰囲気の一冊である。


第一章 異界をかいま見た人々
第二章 私の前に広がった異界
第三章 覗きこんだ異界


…という全三章から成るこの怪談集、実に色々な話を集められたものになっている。
第一章は幽霊譚の他に奇妙な出来事が並ぶ。これは望んで取材をしたもの以外が多く
含まれる。
第二章は小池氏本人の体験談がメイン。
第三章は氏曰く「独自取材によって集まった」怪異譚である。


前々から思っていたのだが、何故か小池氏の怪談集は人間の闇の部分を切り取ったようなものが多く収録されている。今回もストーカーであったり、いじめであったり、心中であったり、虐待であったり…とまるで新聞の縮刷を読んでいるかのような印象だ。
ただ、それが妙に生臭すぎないのは小池氏の文章によるところだろう。
事実か事実ではないのか?といったところに重点を置くのではなく、あった事をそのまま書いた…といった雰囲気なのだ。「常識的に見れば、どこまで事実なのかと疑わざるを得ない証言」だが「体験者の心持ちとしては、紛れもない事実」である、という氏の言葉がそれを表している。この辺りが<怪奇探偵>ならでは、なのだろう。


さて、怪談好きとして特筆すべきは第三章だろう。
この章にまとめられた怪異譚は、かなり禍々しいモノばかりだ。
幽霊がどかんと出てくる話ばかりではないが、どす黒いこと、この上ない。


呪い・祟りの「幽霊マンション 前後編」。
物理的にありえない「緋色の思い出」。
情報の隠蔽「水死霊」。
不気味な「いびつな部屋」。
そして母親たちの闇、「死相の花びら」。
これらのエピソードは屈指の恐怖怪異譚である。
決して、夜中に一人読んではいけない類のエピソードだ。


この「異界の扉」。
文句があるとすれば「値段のわりに、ページ数が少なく収録話数も物足りない」といったところか。出来れば、もっとみっちりと、小池氏の怪談を読みたかったところである。


異界の扉

異界の扉

*1:怪奇探偵の調査ファイルシリーズとはまったく別、ということ。調査ファイルも大変に面白いので、興味がある方は是非。